一級建築士事務所
  株式会社オムニ設計
   
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耐震偽装事件に関して
耐震強度とは
   
   
   
   
≪ 耐震強度とは ≫
   
   
構造計算書の偽装問題に関して、マスコミ等で盛んに使われている「耐震強度」と言う用語ですが、建築構造設計の分野においては基本的に使わない用語です。恐らく、一般の人に対し理解しやすい様に、マスコミが使い出したものだと思います。
では、一般に言われている「耐震強度」と、我々の様な構造設計の専門家が普段用いている用語の違い、そして建物の地震に対する強度や設計に関して、少し書いてみたいと思います。
   
   
そもそも耐震強度って何だ? 』
   
読んで字の如くで「地震に対して耐え得る強度」と言う事なのでしょうね。専門用語ではないので、そもそも用語の定義があいまいですが・・・
マスコミの報道では「耐震強度を偽装している事が発覚し、震度5強の地震で倒壊の恐れがある建物が」などと用いられています。確かに感覚的には理解出来ますよね。
   
だがしかし・・・ なのです。
   
   
『 建築基準法が定める地震力 』
   
建築基準法施行令88条に、以下のような定めがあります。
第88条(地震力) 建築物の地上部分の地震力については、当該建築物の各部分の高さに応じ、当該高さの部分が支える部分に作用する全体の地震力として計算するものとし、その数値は、当該部分の固定荷重と積載荷重との和(第86条第2項ただし書の規定によつて特定行政庁が指定する多雪区域においては、更に積雪荷重を加えるものとする。)に当該高さにおける地震層せん断力係数を乗じて計算しなければならない。この場合において、地震層せん断力係数は、次の式によつて計算するものとする。  Ci=ZRtAiCo
この式において、Ci、Z、Rt、Ai及びCoは・・・・・ (長いので以下省略)
   
何だか難しそうですよね。なので一般的にはこの定めを「数十年に1度程度発生する恐れがある中地震」などと置き直して、使われています。
   
   
『 建築基準法が定めている強度の目安 』
   
専門用語では、建物の地震に対する強さの指標として2つの用語を用います。
   
1つ目が「Ci」で、前の項目に書いた「数十年に1度程度発生する恐れがある中地震」に相当します。「今回の○○ビルは1.25Ciに対する設計をしています」などと用います。このCiに対する設計では、建物の骨格となる柱や梁が1箇所も壊れない事を構造計算書により確認をします。
   
2つ目が「Qu/Qun」で、震度6クラスに相当する大地震に対しての建物全体での安全率を示しています。ここでも誤解が多いのですが、基準では「建物全体で」と書かれている、すなわち部分的には壊れても建物全体が崩壊しなければ良いとされています。この考え方は財産の保全ではなく人命の保護を意味しているのです。(ただし、構造壁が豊富な建物などは、この計算を省略しても良い場合があります)
   
要約すると、中地震に対しては財産である建物を守る。大地震に対しては人命を守る。これが今日の建築基準法が定めている最低基準です。
   
   
『 その基準で安全性が確保できているの? 』
   
確かに疑問を感じる人も少なくないでしょう。しかし法律で定めているのは「最低限の基準」であり、それ以上の安全性を有する建物を設計するのも造るのも自由なのです。なので「基準の2倍程度安全な設計をして欲しい」などの要望があれば、それも当然可能です。
建築物と一口に言っても、様々な種別や用途があり、中には「この建物は5年で償却するので、とにかくローコストで造って欲しい」なんて注文も存在するのです。ですので「基準では最低限の定めをし、それ以上は任意に」となっているのです。
   
   
『 報道で伝えられている 震度5強で倒壊の恐れ と使う理由は? 』
   
この表現の元になっている数値は、先に説明した「Qu/Qun」で、この値が0.5を下回る場合に「震度5強の地震で倒壊の恐れあり」と表現しています。しかしながら本来、「Qu/Qun」と地震の震度の間に直接的な相関関係はありませんので、あくまで「目安」として捉えるべきだと思います。Qu/Qun=0.7だから震度5強に対しては安全だ・・・ などとは言えないのです。
   
   
『 設計上考慮している割増率 』
   
大震災が生じた時に、応急的な活動を支える施設として、庁舎・病院・消防署・学校施設などを設計する時には「用途係数」と言う割増率を考慮する事になっています。
この割増率は「Ci」や「Qu/Qun」の安全率として考慮され、最大で1.5倍の強度を確保する事が定められています。
   
   
『 マンションの設計では安全性を割りました設計はしないの? 』
   
マンションの様な居住用のビルに関しては、法で定める安全率や割増率は存在しません。しかし一部のマンション事業者に於いては「建築基準法が定める地震力の1.2倍で設計する事」等の仕様を定めている場合があります。
また「住宅性能表示制度」と言うものがあり、建築基準法が定める最低基準を超えて、より良い設計や施工を行なうことで「性能評価書」の交付を受ける事が出来ます。これは分譲マンションなどに於いては販売上大きなアドバンテージとなるので、取得する例が増えてきています。この性能評価の中に、構造の安全性に関する項目もあり、一般に「耐震等級」と言われています。
   
   
『 耐震等級とは 』
   
耐震等級は、建物が持つ性能に応じて下表のように定められています。(ただし性能を保証するものではありません、目安として定めたものです)
   
  中地震に対して 大地震に対して
耐震等級1 損傷を生じない程度の耐力を有す 倒壊や崩壊をしない程度の耐力を有す
耐震等級2 1.25倍の力に対して損傷を生じない程度の耐力を有す 1.25倍の力に対して倒壊や崩壊をしない程度の耐力を有す
耐震等級3 1.50倍の力に対して損傷を生じない程度の耐力を有す 1.50倍の力に対して倒壊や崩壊をしない程度の耐力を有す

※ 中地震とは、数十年に1度程度生じる地震
※ 大地震とは、数百年に1度程度生じる地震
※ 損傷とは、構造体に大規模な工事を伴う修復が必要となる著しい被害を指しています
※ 倒壊や崩壊とは、人命がそこなわれるような壊れ方を指しています
   
   
『 免震建物って耐震強度が高いの? 』
   
近年増えつつある免震建物ですが、基本的な考え方が耐震構造とは異なります。
 ・耐震=「地震に対して耐える」
 ・免震=「地震の力を免れる」
耐震構造が受けた力に対して壊れないように設計するのに対し、免震構造の場合は受ける力そのものを減らす設計手法なので、免震建物に対して「耐震性」とか「耐震強度」と言う言葉はなじみません。
   
しかし、大地震時でも建物が大きな力を受ける事も無く、最先端の技術を駆使した安全性の高い建物と言う事が出来ます。また、免震建物の最大の特徴は、大地震時でも建物の揺れを少なくする事が出来るため、家具の倒壊や財産の保護と言う視点では耐震構造の建物より有利と言う事でしょう。(ただし一般的に、耐震構造に比較すると若干建設コストが上がります)
   
   
2006年1月
   
株式会社オムニ設計 代表取締役 金兵秀樹